【登場人物】
巽 変態性欲ハンター
東雲 今回はヘビィボウガン使いハンター
巽 変態性欲ハンター
東雲 今回はヘビィボウガン使いハンター
同年代の女の子達と楽しい狩りを終えた僕は、ユクモ温泉のロビーでドリンクを飲む暑苦しそうなハンター達に遭遇した。
「やだー、オッサン臭ーい」
いかにもベテラン風のおじさん達の中にシノさんの姿を見つけてしまい、慌てて僕は女の子達の陰に隠れる。シノさんは歴戦の猛者風ハンター達と一緒にドリンクを飲み、楽しそうに談笑していた。
あんな笑顔、僕には見せた事ないのに。モヤモヤする僕に構わず、女の子達はキャッキャと番台さんに入浴する旨を伝えていた。
「巽クンも一緒に入ろうよぉ」
「ついでにもうひと狩り行かない?」
女の子達の声は想像以上に大きくロビーに響き、おじさんハンター達が好奇の眼差しをこちらへ向ける。もちろんシノさんもバッチリ僕の方へ視線を向けたが、そのまま顔色一つ変えずそっぽ向いた。
「ごめん、僕用事あるから」
咄嗟に女の子達へ別れを告げ、何も考えず僕はシノさんのもとへ駆け寄る。
「奇遇ですね、シノさんっ」
あの後僕は無理矢理シノさんを誘い、渓流の花香石のかけら採集へやって来た。シノさんは相変わらず仏頂面で黙々と岩の割れ目にピッケルを振るい、温泉での遭遇については何も言わない。
「あの、シノさん、さっきの人達はシノさんのお仲間ですか?」
沈黙に耐えきれず質問すると、ピッケルを操りながらシノさんがゆっくり口を開いた。
「別に仲間なんてものじゃない。魚捕りに来ていたアイルーが渓流でタマミツネを目撃したらしくてな、泡まみれになりながら龍歴院に助けを求めに来たそうだ。それで手の空いたハンターに調査チームの護衛依頼が回ってきただけだ」
「でもシノさん、あのおじさん達と楽しそうにしてましたよね」
思わず拗ねた口調で告げる僕に、シノさんはピッケルを振るう手を止めこちらに視線を向ける。
「仕事の後温泉に浸かってドリンク飲んだら、それなりに仲良くもなるだろう。いい年したオジサン達が無言で帰宅する方が異常だと思わないか?」
「それはそうですけど」
唇を尖らせたまま、更に僕は質問を続けた。
「シノさんは、僕が女の子達と出掛けてたのを見て、なんにも思わなかったんですか?」
「お前は面倒臭い男だな」
呆れ顔で嘆息したシノさんは、拗ねる僕の頭をポンポン叩いて大人の余裕を見せる。
「たまには同年代の女の子と楽しむのもいいんじゃないか。お前はまだ若いんだし、急いで相棒を決める必要もないだろう」
「そんなっ……僕は絶対シノさんの相棒になるって決めて━━」
僕の言葉はシノさんの唇に塞がれた。
「お前、貴族出身なんだってな」
「!」
予想外の言葉に僕は絶句し、まじまじとシノさんを凝視する。シノさんは感情の読めない無表情で僕の視線を受け止め、長く深い溜め息をついた。
「全て合点がいったよ。貴族出身ならハンター業に精を出さずとも食いっぱぐれる事はないし、いざとなれば帰る場所もある。金持ちの道楽とは結構なご身分だな」
「シノさん……」
それ以上シノさんは何も言わず、再びピッケルを振るい始める。その横顔は完全に僕を拒絶していた。
「ひどいですシノさん、勝手に金持ちの道楽だなんて決めつけて」
僕は僕自身の家庭環境をシノさんに明かすつもりはなかったけれど、このまま黙っていては誤解される一方である。
「言っときますけどね、僕にはもう帰る家なんてありませんよ。僕は親から絶縁状を叩きつけられてますんで」
半分怒りながら反論すると、シノさんが訝しげに僕を見つめた。
「絶縁状?」
「はい。世継ぎの僕は将来安泰で婚約者まで決められてましたけど、全部かなぐり捨ててハンターになるって言ったらそれはもう一族郎党大慌てでしたよ」
僕の告白にシノさんは神妙な面持ちになり、太古の化石に想いを馳せる書士隊のように腕組みして顎に手を当てる。
「何故、ハンターを目指したんだ」
「あなたに一目惚れしたからです」
「俺に?」
「はい」
今でも鮮明に覚えている、初めてシノさんを見た日の事。
あの日闘技場では大連続狩猟、五頭のモンスターを狩る『武神闘宴』が行われていた。数多のハンターが三落ちや時間切れで退散する中、ヘビィボウガンを携えたシノさんは二十分もかからずに凶悪なモンスター達を狩り終えたのである。
当時思春期真っ只中だった僕にはシノさんの存在が神のように見え、この世で最も手の届かない人なのだと認識した。
「ラージャンの返り血を浴びながらクールに佇むあなたを見た瞬間、僕は激しく勃起してしまったんです」
「……は?」
それまで黙って僕の話を聞いていたシノさんが、まさに開いた口が塞がらないといった様子で目を見開く。そんなシノさんには構わず僕は初恋の話を続けた。
「この世にこんなにも美しい人がいるのかと知ってしまった僕は、なんとしてもあなたを手に入れたい屈服させたいあわよくば乱れさせたい等々妄想が膨らみ、遂に爆発してハンターになる道を選んだわけです」
「ちょっと待て、つまりお前は変態性欲の持ち主だったって事か」
「変態性欲だなんてとんでもない、これは純粋な恋慕の念です」
僕の訴えにシノさんは頭を抱え、獣のように低く唸る。
「そのエネルギーをもっと他に使えなかったのか?」
「何故ですか?僕はきっとあなたに出会う為に生まれてきたに違いありません。だとすれば、僕のエネルギーが全てシノさんに向けられるのはむしろ必然です」
ペラペラ喋る僕にシノさんは表情を険しくし、わかったわかったとそれ以上の反論を制止した。
「金持ちの道楽なんて言って悪かったな。動機はなんであれ、お前がハンター業に人生を懸けている事はよく理解した」
「悪かったと思うのなら、ちゃんと態度で示して下さいよ」
すかさず僕が告げるとシノさんは苦虫を噛み潰したような顔で唸り、そっと嘆息してから体ごとこちらへ向き直る。
「お前はすぐ調子に乗るよな」
「あなたが僕を調子に乗らせるんです」
シノさんの手が僕の肩に置かれ、荒れて乾いた唇が物欲しげに僕を求めた。互いの吐息が触れ合う距離まで近づいた時、すぐ近くからモンスターの咆哮が聞こえビリビリ空気が震える。
「狩りに行くか」
そう呟いたシノさんの目は既に狩人の光を宿し、使い込まれたヘビィボウガンを愛撫して立ち上がった。
「お前もついてこい、巽……俺の相棒だという自覚があるならな」
「シノさん……!」
シノさんは一切振り返らない。男前なその背中にときめきながら、僕もスラッシュアックスを担いで追いかけた。
水辺で爆走するロアルドロスの姿を確認したシノさんが、スコープ越しに狙いを定めて火炎弾を放つ。すかさず僕もロアルドロスに向かって突撃し、抜刀ジャンプ斬りをお見舞いした。
湯浴み姿のシノさんは妙に色っぽい。おまけに濡れた黒髪が色気を倍増させて、僕は目のやり場に困った。
「シノさんって、無自覚にエロいですよね」
ご機嫌な様子でユクモ温泉に浸かっていたシノさんは、僕の呟きを聞いて物凄く嫌そうな顔をする。
「お前のエロの基準がさっぱりわからん」
「今からお教えしましょうか?」
僕の提案にシノさんは唇をつり上げ、湯船の縁に腕をかけ挑発的な眼差しを向けた。
「それじゃあご教示願おうか」
尊大な態度にゾクゾクと脊髄が痺れ、僕はゆっくりシノさんの身体へ近づく。どこまでも強く美しい姿に、益々僕はのめり込んでいくのだった。
「やだー、オッサン臭ーい」
いかにもベテラン風のおじさん達の中にシノさんの姿を見つけてしまい、慌てて僕は女の子達の陰に隠れる。シノさんは歴戦の猛者風ハンター達と一緒にドリンクを飲み、楽しそうに談笑していた。
あんな笑顔、僕には見せた事ないのに。モヤモヤする僕に構わず、女の子達はキャッキャと番台さんに入浴する旨を伝えていた。
「巽クンも一緒に入ろうよぉ」
「ついでにもうひと狩り行かない?」
女の子達の声は想像以上に大きくロビーに響き、おじさんハンター達が好奇の眼差しをこちらへ向ける。もちろんシノさんもバッチリ僕の方へ視線を向けたが、そのまま顔色一つ変えずそっぽ向いた。
「ごめん、僕用事あるから」
咄嗟に女の子達へ別れを告げ、何も考えず僕はシノさんのもとへ駆け寄る。
「奇遇ですね、シノさんっ」
あの後僕は無理矢理シノさんを誘い、渓流の花香石のかけら採集へやって来た。シノさんは相変わらず仏頂面で黙々と岩の割れ目にピッケルを振るい、温泉での遭遇については何も言わない。
「あの、シノさん、さっきの人達はシノさんのお仲間ですか?」
沈黙に耐えきれず質問すると、ピッケルを操りながらシノさんがゆっくり口を開いた。
「別に仲間なんてものじゃない。魚捕りに来ていたアイルーが渓流でタマミツネを目撃したらしくてな、泡まみれになりながら龍歴院に助けを求めに来たそうだ。それで手の空いたハンターに調査チームの護衛依頼が回ってきただけだ」
「でもシノさん、あのおじさん達と楽しそうにしてましたよね」
思わず拗ねた口調で告げる僕に、シノさんはピッケルを振るう手を止めこちらに視線を向ける。
「仕事の後温泉に浸かってドリンク飲んだら、それなりに仲良くもなるだろう。いい年したオジサン達が無言で帰宅する方が異常だと思わないか?」
「それはそうですけど」
唇を尖らせたまま、更に僕は質問を続けた。
「シノさんは、僕が女の子達と出掛けてたのを見て、なんにも思わなかったんですか?」
「お前は面倒臭い男だな」
呆れ顔で嘆息したシノさんは、拗ねる僕の頭をポンポン叩いて大人の余裕を見せる。
「たまには同年代の女の子と楽しむのもいいんじゃないか。お前はまだ若いんだし、急いで相棒を決める必要もないだろう」
「そんなっ……僕は絶対シノさんの相棒になるって決めて━━」
僕の言葉はシノさんの唇に塞がれた。
「お前、貴族出身なんだってな」
「!」
予想外の言葉に僕は絶句し、まじまじとシノさんを凝視する。シノさんは感情の読めない無表情で僕の視線を受け止め、長く深い溜め息をついた。
「全て合点がいったよ。貴族出身ならハンター業に精を出さずとも食いっぱぐれる事はないし、いざとなれば帰る場所もある。金持ちの道楽とは結構なご身分だな」
「シノさん……」
それ以上シノさんは何も言わず、再びピッケルを振るい始める。その横顔は完全に僕を拒絶していた。
「ひどいですシノさん、勝手に金持ちの道楽だなんて決めつけて」
僕は僕自身の家庭環境をシノさんに明かすつもりはなかったけれど、このまま黙っていては誤解される一方である。
「言っときますけどね、僕にはもう帰る家なんてありませんよ。僕は親から絶縁状を叩きつけられてますんで」
半分怒りながら反論すると、シノさんが訝しげに僕を見つめた。
「絶縁状?」
「はい。世継ぎの僕は将来安泰で婚約者まで決められてましたけど、全部かなぐり捨ててハンターになるって言ったらそれはもう一族郎党大慌てでしたよ」
僕の告白にシノさんは神妙な面持ちになり、太古の化石に想いを馳せる書士隊のように腕組みして顎に手を当てる。
「何故、ハンターを目指したんだ」
「あなたに一目惚れしたからです」
「俺に?」
「はい」
今でも鮮明に覚えている、初めてシノさんを見た日の事。
あの日闘技場では大連続狩猟、五頭のモンスターを狩る『武神闘宴』が行われていた。数多のハンターが三落ちや時間切れで退散する中、ヘビィボウガンを携えたシノさんは二十分もかからずに凶悪なモンスター達を狩り終えたのである。
当時思春期真っ只中だった僕にはシノさんの存在が神のように見え、この世で最も手の届かない人なのだと認識した。
「ラージャンの返り血を浴びながらクールに佇むあなたを見た瞬間、僕は激しく勃起してしまったんです」
「……は?」
それまで黙って僕の話を聞いていたシノさんが、まさに開いた口が塞がらないといった様子で目を見開く。そんなシノさんには構わず僕は初恋の話を続けた。
「この世にこんなにも美しい人がいるのかと知ってしまった僕は、なんとしてもあなたを手に入れたい屈服させたいあわよくば乱れさせたい等々妄想が膨らみ、遂に爆発してハンターになる道を選んだわけです」
「ちょっと待て、つまりお前は変態性欲の持ち主だったって事か」
「変態性欲だなんてとんでもない、これは純粋な恋慕の念です」
僕の訴えにシノさんは頭を抱え、獣のように低く唸る。
「そのエネルギーをもっと他に使えなかったのか?」
「何故ですか?僕はきっとあなたに出会う為に生まれてきたに違いありません。だとすれば、僕のエネルギーが全てシノさんに向けられるのはむしろ必然です」
ペラペラ喋る僕にシノさんは表情を険しくし、わかったわかったとそれ以上の反論を制止した。
「金持ちの道楽なんて言って悪かったな。動機はなんであれ、お前がハンター業に人生を懸けている事はよく理解した」
「悪かったと思うのなら、ちゃんと態度で示して下さいよ」
すかさず僕が告げるとシノさんは苦虫を噛み潰したような顔で唸り、そっと嘆息してから体ごとこちらへ向き直る。
「お前はすぐ調子に乗るよな」
「あなたが僕を調子に乗らせるんです」
シノさんの手が僕の肩に置かれ、荒れて乾いた唇が物欲しげに僕を求めた。互いの吐息が触れ合う距離まで近づいた時、すぐ近くからモンスターの咆哮が聞こえビリビリ空気が震える。
「狩りに行くか」
そう呟いたシノさんの目は既に狩人の光を宿し、使い込まれたヘビィボウガンを愛撫して立ち上がった。
「お前もついてこい、巽……俺の相棒だという自覚があるならな」
「シノさん……!」
シノさんは一切振り返らない。男前なその背中にときめきながら、僕もスラッシュアックスを担いで追いかけた。
水辺で爆走するロアルドロスの姿を確認したシノさんが、スコープ越しに狙いを定めて火炎弾を放つ。すかさず僕もロアルドロスに向かって突撃し、抜刀ジャンプ斬りをお見舞いした。
湯浴み姿のシノさんは妙に色っぽい。おまけに濡れた黒髪が色気を倍増させて、僕は目のやり場に困った。
「シノさんって、無自覚にエロいですよね」
ご機嫌な様子でユクモ温泉に浸かっていたシノさんは、僕の呟きを聞いて物凄く嫌そうな顔をする。
「お前のエロの基準がさっぱりわからん」
「今からお教えしましょうか?」
僕の提案にシノさんは唇をつり上げ、湯船の縁に腕をかけ挑発的な眼差しを向けた。
「それじゃあご教示願おうか」
尊大な態度にゾクゾクと脊髄が痺れ、僕はゆっくりシノさんの身体へ近づく。どこまでも強く美しい姿に、益々僕はのめり込んでいくのだった。
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